「感涙ものだ。映画「世界大戦争」のオーディオコメンタリーを聞いていると、ここは川崎とか、ここは両国とか、ロケ地の情報をいろいろ教えてくれる。つまり、1961年(昭和36年)当時の風景がリアルに見えてしまうわけだ。これは泣ける」
「そんなに?」
「ここは日比谷公園とか。周囲が開けていて、あまり建物が見えないよ」
「へー」
「でも氷川丸が見える山下公園の雰囲気はそれほど変わってないかも」
「いろいろ分かるわけだね」
「世界大戦争は冷戦下に核ミサイルを撃ち合って人類が滅びる映画なんだけど、実は一般庶民の視点で描いてあるから、バシバシ普通の風景が出てくる。確かに両陣営のミサイル基地が特撮で出てくるが、それは脇役。主役は一般庶民」
「他にどんなことがある?」
「主人公の1人にアマチュア無線の趣味がある。部屋に貼ってあるSQLカードは2文字コールばかり。まさに時代だよ」
古い映画論 §
「古い映画は、見てもどこでロケをしているか分からないものが多いから、あまり参考にならない。映画の中でXXという場所と設定されていても、本当にXXで撮ったのか分からないからだ。ところが、オーディオコメンタリーなどではけっこう撮影の裏話が出てきて、ここのロケ地はどこだと分かってしまう。そうなってくると、昭和20年代30年代の映画を見る体験が豊かになってくる」
「背景ばかり見るわけだね」
「どんなに優れた時代考証よりも優れた映像が見られる。何しろ本物だからね」